「硫黄」と聞くと、どんなイメージをお持ちでしょうか?
温泉のにおいを思い浮かべる方も多いかもしれません。
硫黄は、火山活動などによって地表にもたらされる天然の物質でもあります。
実は、この硫黄をブルーベリーの植え付け時に少量使用しています。
では、ブルーベリー畑に硫黄をまくと、いったいどうなるのでしょうか?
今回は、ブルーベリーの森あづみので実際に硫黄を使っている理由と、長年観察してきたことをご紹介します。
硫黄は植物にとっても必要な成分

硫黄は、植物が必要とする元素の一つです。
植物に必要な成分というと、窒素・リン酸・カリウムなどを思い浮かべる方が多いと思いますが、硫黄も植物の生育に関わる重要な成分です。
ただ、日本の土壌では硫黄が不足することは比較的少ないため、一般的な肥料では、硫黄を特別に補うことはあまりありません。
つまり、
「硫黄=普通の植物に必要だから、どんどん与える」
というものではありません。
むしろ、ブルーベリーでは硫黄を使う目的が少し違います。
ブルーベリーは「酸性」が好き?

多くの野菜や果樹は、弱酸性から中性程度の土壌を好みます。
ところが、ブルーベリーは酸性の土壌を好む植物です。
特にハイブッシュ系ではpH4.3~4.8程度が好適な範囲とされるなど、一般的な作物とはかなり違った土壌環境を好みます。
そのため、ブルーベリーを植えるときには、
「土をブルーベリーが好む酸性に近づける」
という考え方が重要になります。
そこで利用されるものの一つが、硫黄です。
硫黄をまくと、土のpHが徐々に下がる

硫黄そのものが、すぐに土を酸性にするわけではありません。
土の中で微生物などの働きによって硫黄が変化していくことで、土壌の酸性化が進みます。
そのため、硫黄によるpH調整は比較的ゆっくりです。
農林水産省の資料でも、ブルーベリーの植え付け前に硫黄粉末を使ってpHを下げる方法が紹介されています。
ブルーベリーの森あづみのでは?

私たちの農園では、ブルーベリーの植え付け時にだけ、硫黄の粉末を少量使用しています。
効果はすぐには現れません。
植え付け後、半年ほどかけて徐々に土壌のpHが下がっていくようなイメージです。
ですから、
「硫黄をまいたら、次の日から土が酸性になった」
というものではありません。
むしろ、時間をかけて土の環境を整えていくためのものです。
有機栽培でも使えるの?
硫黄は、火山活動などによっても自然界に存在する天然の物質です。
そのため、硫黄そのものがすべて「化学的な資材だから有機栽培では使えない」というわけではありません。
農林水産省が示す有機農産物のJAS規格でも、「硫黄」が使用可能な資材として掲載されています。
ただし、どのような硫黄製品でも自由に使えるという意味ではありません。
有機JASで使用する場合には、使用する資材が規格や認証上の条件を満たしているか確認することが大切です。
ブルーベリーの森あづみのでも、有機JASの考え方に沿って資材を選んでいます。
そして、もう一つ気になっていること

硫黄を使う理由は、土壌のpHだけではありません。
私たちの農園では、硫黄をまいた場所で、モグラが近くまで来て、そこで引き返したように見える跡を何度も確認しています。
もちろん、これは現時点では、
「硫黄をまけばモグラが必ず来なくなる」
と断言できるようなものではありません。
あくまで、ブルーベリーの森あづみので長年観察してきた現象です。
ただ、硫黄のにおいなどを利用した忌避については、林業の分野でも研究・利用例があります。
林野庁の資料でも、林業用の忌避剤として「水和硫黄剤」が紹介されています。
農林業では、野生動物による被害を完全になくすことは難しいからこそ、
「動物が嫌がるものを利用して、できるだけ近づかせない」
という考え方があります。
硫黄についても、こうした可能性があるのではないかと考えています。
なぜモグラが来るのか?

ブルーベリー畑では、土の表面に木材チップなどの有機物を敷いています。
こうした環境では、土の中の生き物も増えてきます。
特にミミズなどが増えると、それを餌にするモグラにとっても魅力的な環境になります。
つまり、
植物にとって良い環境をつくったら、モグラにとっても良い環境になってしまった。
そんなことも起こります。
そこで硫黄を使ってみると、モグラが畑の中まで入り込んでくることが少なくなったように感じています。
農業では、このように一つの対策が別の生き物に影響を与えることがあります。
だからこそ、単純に「害虫だから駆除する」「害獣だから追い払う」と考えるのではなく、畑全体の環境を見ることが大切だと感じています。
植え付け後は、硫黄を追加していません

もう一つ、私たちの農園で大切にしていることがあります。
それは、
硫黄を使うのは、基本的に植え付け時だけ
ということです。
植え付け後、毎年硫黄を追加しているわけではありません。
ブルーベリーの根は、年月とともに広い範囲へ伸びていきます。
それでも、特に問題なく生育しています。
これは、ブルーベリーの根と土壌中の微生物、菌根菌などとの関係が時間とともにつくられていくことも関係しているのかもしれません。
もちろん、これは一つの仮説です。
土壌環境は、単純に「pHが何だから植物が育つ」というだけではありません。
根、微生物、有機物、水分、土の構造など、さまざまなものが関係しています。
だから私たちは、硫黄を「ずっと使い続ける資材」と考えているわけではありません。
植え付け直後の生育を補助するもの。
そして、
モグラなどによる被害を防ぐための一つの手段。
そのくらいの位置づけで使っています。
酸性土壌には、病気との関係も?

ブルーベリーが酸性土壌を好むことには、もう一つ興味深い側面があります。
果樹では、根に発生する「白紋羽病」などの病気が問題になることがあります。
一方で、ブルーベリーでは、こうした根の病気が一般的な果樹ほど問題になりにくいとされることがあります。
その理由の一つとして、ブルーベリーがもともと酸性土壌に適応した植物であることとの関係が考えられています。
ただし、
「酸性にすれば病気にならない」
という単純な話ではありません。
土壌病害には、土壌水分や排水性、土壌中の微生物など、さまざまな要素が関係します。
酸性土壌も、その環境の一部として考えるのがよいでしょう。
硫黄は「自然だから安全」ではありません

ここは、とても大切なところです。
「天然成分だから安全」
という考え方は正しくありません。
硫黄は適切に扱う必要があります。
特に粉末状の硫黄を扱う場合には、粉じんを吸い込まないようにすること、目や皮膚に触れないようにすること、風の強い日に散布しないことなどに注意が必要です。
また、硫黄は土の中で酸化されることで酸性化に働きます。
そのため、必要以上に使用すればよいというものでもありません。
使用する場合は、土壌のpHや土質を確認し、使用する製品の表示・使用方法を守ることが大切です。
硫黄は「ブルーベリーのための環境づくり」の一部

ブルーベリー畑に硫黄をまく。
一見すると、少し不思議な作業に見えるかもしれません。
しかし、その目的は単純に「肥料を与える」ということではありません。
ブルーベリーが本来好む酸性の環境をつくり、植え付け直後の生育を助ける。
そして、私たちの農園では、モグラへの影響も観察しています。
さらに、植え付け後は硫黄を追加せず、時間とともに形成されていく根と土壌の関係を見ながら栽培しています。
硫黄は、あくまでも一つの道具です。
大切なのは、
「何をまくか」だけではなく、「なぜ、それを使うのか」
を考えること。
ブルーベリーが育つ土をつくるということは、単にpHを数字で合わせることではありません。
植物、土、生き物、微生物。
そうしたものが関わり合う環境を少しずつ整えていくことなのだと思います。
ブルーベリーの森あづみのでは、これからも畑の変化を観察しながら、できるだけ自然環境への負担を抑えた栽培を続けていきたいと思います。

